今日の悲しい出来事を記録しておく。
今日、息子は友達と遊ぶと言って、出かけていった。
目当ての友達が外にいなかったのか、時折帰ってきてはトイレに行ったり。
よくあることなので、気にもとめなかった。
娘を昼寝させていた妻が、ちょっとちょっとと私を呼ぶ。
「どうした?」
「ちょっと、あの、貯金箱、どうしたの?」
「???」
言っている意味がよく分からなかったが、
部屋を見ると一目瞭然だった。
本棚の上の方においてある、24時間テレビのロゴが入った紙製の貯金箱が、雑多に積まれた本の山の上にポツンと置いてある。
しかも、上部を開けられた状態で。
妻が娘を昼寝させていたとき、息子は一緒に寝てしまったと思い込み、こっそりと私の部屋に入り、貯金箱を物色していたようなのだ。
貯金箱の口が開いたままで放置しておくことは、絶対にない。
本棚の上の方に置いており、いっぱいに小銭が入っているので、これ以上は入れられず、ここしばらくはずっと触ってもいなかったのだ。
息子が外から帰ってきた。
口が開いたままの貯金箱を見せ、どういうことかと問い詰めた。
はじめは「知らない」と視線を外して言った。
いつもの嘘をつく時の行動。
私は我慢できなくなって、息子をぶった。
嘘をつくこと。
お金を盗ること。
それは絶対にしてはならないことなのだ。
それだけをどうしても、どうしても息子に伝えたかった。
いや、分からせなければならないと、強く思った。
息子は泣きじゃくる。
私は問い詰める。
どういうことなんだ。
自分がやったことを言ってみろ、と。
強く叱る役目は、我が家では私の役目。
それは妻と話し合って決めたわけではないが、
そういうものだと自分でも思っているし、
それはそれで構わないと思っている。
しかし、やはり、こういう時は、嫌だなと思う。
叱らなくてもいいものなら、そのまま放っておきたい。
最近は、小さなことならもう放っておこうと考えるようになっている。
これくらいはもういいよ、完璧にならなくてもいいよ、
とどんどんハードルを下げているつもりだった。
でも、今日はそういうわけにはいかなかった。
嘘はダメなんだ。
お金を盗るのは絶対にダメなんだ。
私も、小さいころ、親の財布からお金をくすねて、
父にこっぴどく叱られたことがある。
今でも忘れない。
普段はあまり怒らない父だったから、
余計に怖かった記憶が鮮明にある。
そのとき、父からぶたれたのだ、私も。
すごい形相で、張り手をされた。
今でも忘れない。
そのくらい、怖い、という記憶とともに、
やってはいけないことを叩き込む、という思いがあった。
うまく伝わったのかは、正直わからない。
私は息子をぶったあと、
外に出て、自分がしたことをよく考えろと言った。
どうしたら許してもらえるのかを考えて来い、と。
その後、約3時間、息子は帰ってこなかった。
ひとり、ゆっくりと帰ってきた息子。
私はその時、台所で皿や鍋を洗っていた。
息子がひとこと言った。
「お金盗って、すみません・・・でした・・・」
「で、どうするんだ?」
「もう・・・しません・・・」
蚊の鳴くような小さな声で、いちおう彼なりに謝ってきた。
私はもうこれ以上追求しないようにした。
「わかった。じゃあ、信じるからな。約束だからな。」
うまく伝わったのかは、正直わからない。
私なりには、彼を待った。
彼が分かってくれるのを、これからも、待たなくてはならないのだろう。