幻冬舎 (2016-02-25)
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「MC型教師」として有名な方、「ぬまっち」こと沼田晶弘さんの著書。
文科省お墨付きの”教育界のバズワード”「アクティブ・ラーニング」が叫ばれ、2016年は教育界のあらゆる場面で「アクティブ・ラーニング」が飛び交いましたが、本書はちょっとその流れに乗りつつも、実は「指導者」のあり方をストレートに綴った良書、だと思います。
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ぬまた・あきひろ/”MC型”教師、小学校教諭
1975年東京生まれ。国立大学法人 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネッサンス」に取り上げられて話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。
Amazonでは以下のように紹介されている。
講演・取材依頼殺到! !
後輩、部下、子どもすべてに通じる、カリスマ小学校教諭の行動力を最大にするコーチングテクニック後輩、部下、こどもたち、誰もが動き出す仕掛けは存在します!
「やる気」を最大に引き出すキッカケの作り方と、指示の出し方etc.を収録。
相手の意見に口を挟まず、見守ることに徹するのが成果を倍増させるコツ。
この基本を学べば、常に結果に向かって動く人を育てられます。あなたの常識で他人は動かない! !
●謝れる上司が信頼を得る
●「いい質問だね! 」はNGワード
●プロセスは好きな方法でOK
●失敗したら、まず褒める
●相手のやる気スイッチをまず切る
●褒めるときには比較は厳禁第1章 最大のパフォーマンスを引き出す関係を作る/指示出し前で、結果に差をつける!
第2章 相手が自分で動き始める! /ゼロからやる気を引き出す
第3章 気持ちをアゲて結果を引き寄せる/小さなやる気を最大に活かす!
第4章 実践で能力をフル稼働させる/ピンポイントに強化する!
沼田先生は教師としてのあり方、心構え、その仕掛け方を書きたかったのかな、と思いますが、出版社はビジネスパーソン向けに売りたかったんでしょうね、という内容になっていますね(それはそれとしていいとは思いますが)。
やる気が出てくるには、実はキッカケみたいなものがあります。だから、そのキッカケを作ってあげられれば、出てきてくれるものなのです
この書籍をひと言で言うならば、「やる気」というのは、自然と出てくるものであって、きっかけがあればいい、そのきっかけのし掛け方が書かれた本、と言ってしまっていいと思います。
「やる気」を引き出す環境整備
そのキッカケつくりの前提として、
やる気には出てきやすい環境がある
その環境作りが大切だと説いています。
エンゲージメント
環境とは、
とにかく、大丈夫そうだと思わせることです。 初対面で大切なのは、ちゃんと話ができる距離に近づくことです。(中略)警戒心が強い状況では、こちらの指示をそのまま受け取りきれず、相手が勝手な解釈をしてしまうなんてことが起きたりします。
年上であるボクが、子どもに向かって「許可を取る」という儀式を踏むことが、「この人は、勝手な人ではない」という安心感にもつながるようです。
まずは、相手とのエンゲージメントが大切である、ということだと解釈しました。
即時フィードバック
そして、即時フィードバックを徹底すること。これらはコーチングの基本として、どのコーチング本にも書かれていることですね。
ルールから外れたときには、気がついた瞬間に注意して仕切り直します。 明らかなルール違反の場合は、少し様子を見ようなんて時間を空けないこと。 きっちりと明確にルールを伝え直すことです。
絶対に、謝るタイミングを先送りにして逃さないこと。
エンゲージメントを強固にすること、これは徹底しなければ信頼関係が築けないわけですね。
この「ほう・れん・そう」を教えるときに、セットで必要なことがあります。あなたも相手に、ひとつ約束をしてあげなくてはなりません。 報告をきちんとしていたら、「何があっても絶対に守ってあげる」ということです。
「ほう・れん・そう」を通した相手に対しては、味方に立って絶対に守る。 これは上司と部下との信頼関係作りに必ず必要なこと。
基本は課題・制限・報酬
そうした「やる気を引き出すきっかけ」の基本は3つ。
仕事や課題を相手に提示するときに、揃えておいた方がよい3つのポイントがあります。相手に指示内容を説明する前に、この3つが揃っているかをまず確認してください。 ●課題(ミッション・ゴール設定) ●制限(時間・費用・条件) ●報酬(ボーナス・ポイント・承認・称号) これが、やる気を引き出すキッカケとなる基本の3要素。
(1)課題(ミッション・ゴール設定)
(2)制限(時間・費用・条件)
(3)報酬(ボーナス・ポイント・承認・称号)
このうち、(1)課題と(2)制限はセットとして考えるのがよいそうだ。
これらがそろっていないときは、こちらの準備がまだ足りないということだという。
課題を始めるときに、ゴールだけは明確にする必要があります。
制限をつけると、クリアするために工夫しなくてはならなくなります。
課題を明確にした上で、制限は楽しくなる仕掛けの一部として見せること。
その上で、
それぞれの縦横無尽に広がるやる気を止めないで「受け止めること」
あくまでもこちらは「受け止める」ことに徹する必要があるということが繰り返し書かれています。
「報酬」については、
できなかったら取り上げる、という罰ゲーム方式では、やる気は増しませんので、避けることをおすすめします。
と説明されています。
この「罰ゲーム方式ではなく、目の前ににんじん方式のほうがよい」というのは、売れまくっているこの書籍『「学力」の経済学
』にも出てきていました。
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与える「目の前ににんじん」作戦は、この性質を逆に利用し、子どもを今勉強するように仕向け、勉強することを先送りさせないという戦略なのです。
ついでにいうと報酬を与えるのは、アウトプットに対してではなく、インプットに対して行うのがよいそうです。
ご褒美は、「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与えるべきだ。(中略)アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちは「今後もっとたくさんのご褒美を得るためには何をしたらよいと思うか」という問いに対し、ほとんど全員が「しっかり問題文を読む」「解答を見直す」などのように、テストを受ける際のテクニックについての答えに終始していたのです
学力は「使える」か否か=コンピテンシー
全ての「学び」がそうであるとまでは言いませんが、およそ学校というところで学ぶということは、実社会に出たときに、自立して生きていくことが目的だと言えるでしょう。
小学生が漢字を覚えるのは、大人になってからビジネスや日常で、実際に読み書きができるようになるためです。ちゃんと社会で使えるようにするため。(中略)社会で試されるのは、常に使えるかどうかです。
小学生だけでなく、中学生も高校生も大学生も同じ。社会に出たときに困らないようにするためです。
しかし、多くの「先生」は、実社会で働いた経験が無い場合が多いのが現状。
子どもが学校に通うのは、なぜか?
社会に出るためです。社会に通用する知識を学んで準備しているのです。それなのに社会と切り離して考える方がおかしいのです。そして、社会人は常にその学んだ知識を使う実践の連続。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/016/siryo/06092005/002/001.htm
「コンピテンシー」とは、ものすごく噛み砕いて言うと「学んだことをきちんと使えるようにする力」と解釈しています。
これからの時代、教職課程には、ファシリテーションやコーチングのスキルを含めていただきたい。
そしてできれば、民間企業に2〜3年勤める経験をしてほしいですね。
「待つ」ことで「自分で答えを見つけさせる」
「教える」「指導する」という立場に立つと、どうしてもやってしまいがちなのが、良かれと思ってアドバイスをどんどんしてしまうこと。相手が納得していることが実感できないと、これなら分かるかなああ言えば分かるかなと、次々に言葉を変えてアドバイスをしてしまう。
これは厳に慎まなければならないと説いています。
「答えを自分で見つける」ことの大切さと、「成長を見守ってもらえていると、安心して結果が出せる」ということを、身をもって学びました。
アドバイスは最低限にして、自分で答えを見つけさせる。
コーチングの教授から学んだ、最強のコーチングロジックです。間違えているなら、「もう1回よく考える」状況を作ることで、人の思考力や応用力は磨かれます。
一方的にアドバイスをしてしまって、相手の成長するチャンスを潰さないように気をつけてください。
相手のハッピーを自分にとってのハッピーにする、心構え
「自己効力感」を持たせることが大切、とはよく言われます。
子どもの通う小学校でも親向けによく言われていますが、それをじゃあ家庭で育めと言われると、とてもむずかしいものだと感じています。
どうすれば、こどもが自己効力感を持てるだろうか。
指導で心掛けるべきことは、「相手に自信をつけさせる」ことです。
自信がつけば、自然にそっちのゴールを自ら目指すようになるよね?
まだまだ、私にとっては、永遠のテーマ、なのかもしれない。
基本は、「相手のことを考える」というシンプルな構造。
小さな子どもはいつでもどこでも、100%褒めた方が喜びます。それは自我が弱いから。 自我が強くなるとそうはいきません。色々なことに気を遣うあまり、褒められて恥ずかしくなるときがあります。社会人は人間関係がさらに複雑なので、気遣うポイントがさらに増えます。
しかし、そのヒントはたくさん得られた、と思わせる1冊でした。
以下の書籍も大変興味深いですが、こちらのコラムも勉強になります。
http://kyoiku.yomiuri.co.jp/numata/
KADOKAWA/角川書店 (2016-07-10)
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ピンバック:【BOOK】教育にはエビデンス(根拠)が必要である理由『「学力」の経済学』(中室牧子/教育経済学者:著) | Crazy One - glad design blog -