【BOOK】『転々』藤田宜永:著 人生を振り返り前を向く東京散歩

井の頭公園をスタートし、ゴールだけを決めて東京を東へ散歩するロードミステリー。
借金を抱えた青年・竹村文哉と強面の男・福原愛一郎。
「百万円をやるから一緒に散歩をしろ」という奇妙な提案を受け、文哉は福原とともに歩き出す。
東京散歩を縦軸に、文哉の純愛物語を横糸に、偶然に出会う人々と、さらに絡み合う福原の謎、文哉の人生と家族の謎。
短いけれど切ない人生を振り返り、再び生き直すための散歩は、衝撃の結末を迎える。

【BOOK】『理由』宮部みゆき:著 現代社会の落とし穴

東京都荒川区の超高層マンションの一室で起きた凄惨な殺人事件。
男女の死体と老婆の死体。そしてベランダから落下したと思われる若い男性の死体。
計4名の惨殺死体は、そのマンションの住人ではなかった・・・。
事件を中心に、膨大な数の関係者の証言をまとめた形で表現されるルポタージュの構成は、社会に潜む落とし穴を見事に浮かび上がらせる。
圧倒的な解像度で関係者間の関係性を活写する、極上のリアリティで綴られる大作。第120回直木三十五賞受賞作。

【BOOK】『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ:著 助けてと声を上げ「呪い」を解く物語

「世界一孤独なクジラ」が歌う声は52ヘルツで響く。ただしその声は他のクジラには聞こえない。
助けてという声が他の誰にも届かない孤独を背負って、深い海を漂うそのクジラに、希望はあるのだろうか。
児童虐待、ヤングケアラー、ネグレクト、トランスジェンダーなど、助けてと声を上げても聞いてもらえない者の悲しみは、52ヘルツで歌うクジラそのものだ。
2021年本屋大賞受賞作。「自立」に必要な、たったひとつの「呪い」を解く物語。

【BOOK】『わたしが消える』佐野広実:著 最後に残った記憶とは

自分の記憶が徐々に失われていくとしたら、いま、何をすべきだろうか。
これまでのすべての記憶がなくなってしまったら、自分は「生きている」と言えるのだろうか。
たしかに「生きていた」という証を、まだ残っている記憶の限りを残した男と、
それを追う主人公とその家族が最後に見たものとは何だったのか。
本作は、自己のアイデンティティと社会に巣くう不条理な力との狭間で、本当に大切にすべきことは何かを考えさせられた傑作である。

person in black pants and black shoes standing on brown wooden dock during daytime

【BOOK】『夜のピクニック』恩田陸:著 青春という虚構

高校の修学旅行の代わりの行事で、夜通しみんなで長距離を歩く「歩行祭」。
歩きながら、普段は言えないことを話し、普段は聞けないことを聞く。
高校最後の夏、あともう少しで大人になってしまう、そのギリギリ手前の、最後の花火が花開くような、切なさとやや暗さのある混沌と、汗も足の痛みも、なんなら鼻水だって混じった、青春の一夜の物語。

君のクイズ

【BOOK】『君のクイズ』小川哲:著 私は私のクイズを探そう

本作は、テレビ番組などでもよく観られる「競技クイズ」を舞台とした、ミステリー仕立ての物語である。 非常にシンプルな構造で、圧倒的なリーダビリティ(読みやすさ)で描かれている。 なによりも、「なぜ一文字も読まれていない問い …

【BOOK】『ルパンの消息』横山秀夫:著 あのときのあの人はここにいた

知らずに読んだのだが、あの『64』や『クライマーズハイ』や『半落ち』の横山秀夫氏の、本作がデビュー作だったとは。
ポンコツ高校生3人の甘酸っぱい恋や青春、警察組織内部のどろっとした上下関係と、15年前の府中三億円事件までもが絡んだ極上のミステリー。
横山氏お得意の昭和後期の埃っぽさと嘘くささとなんだかよくわからないけど熱くなってしまう切なさとが、幾重にも重なり合って彩られた読み応えのある一作だった。
終盤のどんでん返しに次ぐどんでん返しと、実はあのときのあの人が・・・という驚きで最後まで楽しませてくれる、文句なしの傑作だ。

【BOOK】『ある男』平野啓一郎:著 人は他者によって自分を愛せる生き物

人は自分のことがわからない。自分以外の、例えば鏡などを用いないと自分の顔を見ることもできない。
自分を知るためには他者が必要で、他者と過ごした時間の濃密さによって自分自身の幸せの深さも得られるのではないだろうか。
だからこそ、我々は物語というフィクションを信じることで生き続けて来れたのだろう。
人間存在の根源に迫る一冊。

【BOOK】『イクサガミ -天-』今村将吾:著 週刊少年ジャンプ的超エンタメ時代小説

本作を一言で言うならば、「週刊少年ジャンプ的超エンタメ時代小説」だ。 時代小説はほとんど読んだことがないが、テレビや映画での時代劇はよく見ているので、そのうち時代小説も楽しめるようになるかな、なんて思っていたタイミングだ …

一億円のさようなら

【BOOK】『一億円のさようなら』白石一文:著 置かれた場所で足掻くのが人生

人生いろいろ。夫婦、子供、会社、仕事、いろんなことが交わりながら、一人の人生を形作っている。 自分自身で決断して積極的に選択できることは、そう多くはない。 むしろ周りに合わせて、流されて、何となく選んでしまっている道の何 …

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【BOOK】『生存者ゼロ』安生正:著 これは現代の黙示録なのか

圧倒的なスケールで描くクライシス・バイオパニック・サスペンス。というとかなり軽いアクション映画のような表現だが、自然の猛威なのか、人類のエゴが引き起こした厄災か、想像を超えた事象に人類が巻き込まれる様を描いた大作だ。
もし、日本が、世界が、いや人類が滅びるとしたら、こういった原因は十分に考えられる、と妙に納得してしまう。
それほどまでの説得力があるロジックと圧倒的な状況描写で最後まで緊張感が張り詰める物語だ。

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【BOOK】2022年に読んだ本 21冊ふりかえり

2022年はたくさんの小説を読んだ。 感想文もたくさん書いた。 読んだ本すべてを感想文にしたわけではないが、ひとまずこの1年に読んだ本をまとめておこうと思う。

【BOOK】『同志少女よ敵を撃て』逢坂冬馬:著 真の敵は自分の内側にいる

主人公他、主要な登場人物の多くが女性であることは、大きな要素ではあるものの、本作のテーマのひとつの断面に過ぎない。
本作の根幹にあるのは、人はなぜ戦争をするのか、何のために戦うのか、正義とは何かといった人間が生きる上での根源的な問いに対する、著者のアンサーのひとつが記されている、ということだ。

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【BOOK】『火車』宮部みゆき:著 地獄へ運ばれるべきは誰なのか

本書が刊行されたのは1992年。
あらためて令和の時代に読んでみて、テーマの根深さは当時からずっと変わっていないことに驚きとともに感嘆した。

【BOOK】『ブラックボックス』砂川文次:著 見えない箱から抜け出した「成長」の物語

読んでいて、爽快感があるとか、この先の展開がどうなるのか気になる、といった作品ではない。
どちらかと言うと、鬱屈した人間の内面の葛藤や、なぜこんな気持ちになるのかがわからないけれど、溢れ出てしまう焦燥感を描写した作品だなと感じた。
そしてその苦悶の日々の先に、成長し、希望が見える作品でもあった。

【BOOK】『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平:著 歴代最高の「野球人」の記録

「歴代最多の3回の三冠王」 「日本人初の1億円プレーヤー」 「優勝請負人」 落合博満を言い表す言葉はたくさんあるが、これだけでは落合博満という人間を表現するには全然足りない。 私は大の広島カープファンではあるが、歴代最高 …

【Audible】耳で読書する『Audible』を始めてみた 音声メディア沼にハマる!?

遅ればせながら、「Audible」を始めてみた。

【BOOK】『ヒトリシズカ』誉田哲也:著 ひとりの女性の誰にも負けなかった人生の記録

一人の女性の半生を、語り部を変えながら紡ぐ連作短編ミステリー。
時系列が行ったり来たりするなか、一貫して怨念と共に生きる「静加」の周辺で語られるひとりの女性の生き様が交錯する。
そしてその女性は、守るべき存在を抱えながら、誰にも負けなかった人生だった。

【BOOK】『護られなかった者たちへ』中山七里:著 護る側も護られる側も人間

この作品を読んだときに、真っ先に思ったのは、全国の福祉保健事務所の職員の方々は、これを読んでどう思うのだろうか、ということだ。 もちろん小説はフィクションなので、鵜呑みにするわけにはいかないし、現実とごちゃまぜに考えるべ …

【BOOK】『カラスの親指』道尾秀介:著 騙された読了後に去来するもの

なんと言えば良いのだろうかこの感覚は。読後感は一言で言えばとても爽快感があった。感想文を書こうと思ったが、何を書いてもネタバレになりそうな気がして、何から書けば良いのか分からなくなった。この作品はネタバレをしてしまうと、 …