君のクイズ

【BOOK】『君のクイズ』小川哲:著 私は私のクイズを探そう

本作は、テレビ番組などでもよく観られる「競技クイズ」を舞台とした、ミステリー仕立ての物語である。 非常にシンプルな構造で、圧倒的なリーダビリティ(読みやすさ)で描かれている。 なによりも、「なぜ一文字も読まれていない問い …

【BOOK】『ルパンの消息』横山秀夫:著 あのときのあの人はここにいた

知らずに読んだのだが、あの『64』や『クライマーズハイ』や『半落ち』の横山秀夫氏の、本作がデビュー作だったとは。
ポンコツ高校生3人の甘酸っぱい恋や青春、警察組織内部のどろっとした上下関係と、15年前の府中三億円事件までもが絡んだ極上のミステリー。
横山氏お得意の昭和後期の埃っぽさと嘘くささとなんだかよくわからないけど熱くなってしまう切なさとが、幾重にも重なり合って彩られた読み応えのある一作だった。
終盤のどんでん返しに次ぐどんでん返しと、実はあのときのあの人が・・・という驚きで最後まで楽しませてくれる、文句なしの傑作だ。

【BOOK】『ある男』平野啓一郎:著 人は他者によって自分を愛せる生き物

人は自分のことがわからない。自分以外の、例えば鏡などを用いないと自分の顔を見ることもできない。
自分を知るためには他者が必要で、他者と過ごした時間の濃密さによって自分自身の幸せの深さも得られるのではないだろうか。
だからこそ、我々は物語というフィクションを信じることで生き続けて来れたのだろう。
人間存在の根源に迫る一冊。

【BOOK】『イクサガミ -天-』今村将吾:著 週刊少年ジャンプ的超エンタメ時代小説

本作を一言で言うならば、「週刊少年ジャンプ的超エンタメ時代小説」だ。 時代小説はほとんど読んだことがないが、テレビや映画での時代劇はよく見ているので、そのうち時代小説も楽しめるようになるかな、なんて思っていたタイミングだ …

一億円のさようなら

【BOOK】『一億円のさようなら』白石一文:著 置かれた場所で足掻くのが人生

人生いろいろ。夫婦、子供、会社、仕事、いろんなことが交わりながら、一人の人生を形作っている。 自分自身で決断して積極的に選択できることは、そう多くはない。 むしろ周りに合わせて、流されて、何となく選んでしまっている道の何 …

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【BOOK】『生存者ゼロ』安生正:著 これは現代の黙示録なのか

圧倒的なスケールで描くクライシス・バイオパニック・サスペンス。というとかなり軽いアクション映画のような表現だが、自然の猛威なのか、人類のエゴが引き起こした厄災か、想像を超えた事象に人類が巻き込まれる様を描いた大作だ。
もし、日本が、世界が、いや人類が滅びるとしたら、こういった原因は十分に考えられる、と妙に納得してしまう。
それほどまでの説得力があるロジックと圧倒的な状況描写で最後まで緊張感が張り詰める物語だ。

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【BOOK】2022年に読んだ本 21冊ふりかえり

2022年はたくさんの小説を読んだ。 感想文もたくさん書いた。 読んだ本すべてを感想文にしたわけではないが、ひとまずこの1年に読んだ本をまとめておこうと思う。

【BOOK】『同志少女よ敵を撃て』逢坂冬馬:著 真の敵は自分の内側にいる

主人公他、主要な登場人物の多くが女性であることは、大きな要素ではあるものの、本作のテーマのひとつの断面に過ぎない。
本作の根幹にあるのは、人はなぜ戦争をするのか、何のために戦うのか、正義とは何かといった人間が生きる上での根源的な問いに対する、著者のアンサーのひとつが記されている、ということだ。

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【BOOK】『火車』宮部みゆき:著 地獄へ運ばれるべきは誰なのか

本書が刊行されたのは1992年。
あらためて令和の時代に読んでみて、テーマの根深さは当時からずっと変わっていないことに驚きとともに感嘆した。

【BOOK】『ブラックボックス』砂川文次:著 見えない箱から抜け出した「成長」の物語

読んでいて、爽快感があるとか、この先の展開がどうなるのか気になる、といった作品ではない。
どちらかと言うと、鬱屈した人間の内面の葛藤や、なぜこんな気持ちになるのかがわからないけれど、溢れ出てしまう焦燥感を描写した作品だなと感じた。
そしてその苦悶の日々の先に、成長し、希望が見える作品でもあった。

【BOOK】『ヒトリシズカ』誉田哲也:著 ひとりの女性の誰にも負けなかった人生の記録

一人の女性の半生を、語り部を変えながら紡ぐ連作短編ミステリー。
時系列が行ったり来たりするなか、一貫して怨念と共に生きる「静加」の周辺で語られるひとりの女性の生き様が交錯する。
そしてその女性は、守るべき存在を抱えながら、誰にも負けなかった人生だった。

【BOOK】『護られなかった者たちへ』中山七里:著 護る側も護られる側も人間

この作品を読んだときに、真っ先に思ったのは、全国の福祉保健事務所の職員の方々は、これを読んでどう思うのだろうか、ということだ。 もちろん小説はフィクションなので、鵜呑みにするわけにはいかないし、現実とごちゃまぜに考えるべ …

【BOOK】『カラスの親指』道尾秀介:著 騙された読了後に去来するもの

なんと言えば良いのだろうかこの感覚は。読後感は一言で言えばとても爽快感があった。感想文を書こうと思ったが、何を書いてもネタバレになりそうな気がして、何から書けば良いのか分からなくなった。この作品はネタバレをしてしまうと、 …

【BOOK】『ガーディアン』薬丸岳:著 教師の矜持とは

Kindle Unlimitedで読了。 タイトルから一瞬、SFっぽい内容なのかと思ったが学園ものだった。ただ、普通の学園ものではないあらすじを見て、読んでみようと手に取った(Kindleなのに手に取るという表現はいかが …

【BOOK】『#真相をお話しします』結城真一郎:著 絶対に予想できない真相

本屋が好きで週末はだいたい足を向ける。
最近、やけに目立つ帯とインパクトのある表紙で気になっていた書籍を、半ば衝動的に購入した。
5つの短編から構成されているのだが、ひとつひとつの編がひと癖もふた癖もあるストーリーになっており、ひとつを読み終えたら、すぐに次に進むには休憩が必要なくらい「濃い」作品集だ。

【BOOK】『百年法』山田宗樹:著 死は人として生きるということ

この衝撃的な書き出しで始まる物語は、人類が永遠に求め続けるであろう「不老不死」をテーマに、人間に対する愚かさと希望とを描いた作品だ。
この条文が全ての根源となって、悲劇も、幸福も、希望も、葛藤も、全てをまるっと呑み込んでドラマが描き出されていく。

【BOOK】『宝島 HERO’s ISLAND』真藤順丈:著 宝は英雄が見た碧い夢

本作品は、1952年発効のサンフランシスコ講和条約から、1972年の本土復帰までの20年に渡る沖縄の史実をベースにしている。米軍基地から物資を盗み出す『戦果アギヤー』の若者たちの青春と葛藤を交えながら、沖縄が歩んできた苦悩を描いた第160回直木賞作品だ。

2022年は沖縄が本土復帰を果たした1972年からちょうど50年の節目の年に当たる。
1972年生まれのいわゆる「復帰っ子」と同い年の私には、いま、この作品を読むことに、ある種の義務感と偶然性と必然性を感じ、神様のいたずらにあえて弄ばれてみようかと思い本書を手に取った。

【BOOK】『爆弾』呉勝浩:著 ルールを踏み越えられる「仲間」

シンプルなタイトルだが、内容はえげつない、という評判だけを聞いていて、書店で見かけて即購入した。なるほど、評判通りえげつない。いや、えげつないどころか、ちょっとした問題作ではないかと思った。単に爆弾がしかけられて、それを警察が必死に捜査してなんとか爆破は止められた、といったチープなものではない。人間の心理、常識、正義感の瘡蓋をバリバリとめくり上げ、本当にそれって正しいのか? あなたにもこんな気持ちあるんじゃないのか? とラストまで揺さぶられっぱなしになる。そんな作品だ。

【BOOK】『雨に消えた向日葵』吉川英梨:著 信じることそのものが希望であり奇跡である

娘を持つ父親の立場でしか読めなかった。 そしてそれは同時に凄まじい恐怖でもあった。 私には娘がいる。それも(読書時点では)同じ小学五年生だ。 もし、娘に何かあったら、と思うと、ページをめくる手が躊躇してしまう。 でも、先 …

【BOOK】『傲慢と善良』辻村深月:著 傲慢さと善良さを乗り越えるためには

Photo by Brooke Cagle on Unsplash 誰の中にもある自己愛を傲慢と捉えるか、それとも善良と捉えるのか。果たして自分はどうだろうか、と考えた。 ずっと善良だと思っていたが、それはある一面に過ぎ …