【BOOK】『道徳の時間』呉勝浩:著 ルールと道徳の違いは「あなた」の存在

「道徳」という言葉はおそらく誰しもが一度は聞いたことがある言葉だろう。
だが、説明しろと言われるとこれほど困難な言葉はない。
どのように説明しても合っているようなそうでもないような、曖昧で非常に手触りのない言葉でもある。
関西に程近い地方都市・鳴川市。
『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』有名陶芸家が死亡している現場に残された謎のメッセージ。
次々に起こる類似したイタズラとも思われる事件が続く中、ビデオジャーナリスト伏見は謎の女・越智冬菜からドキュメンタリー映画のカメラマンを依頼される。
それは過去に同じ鳴川市で起きた殺人事件を追う内容だったが、証言者を撮影していく中で現在の事件とのリンクに気づいていく・・・
謎が謎を呼ぶ展開に心揺さぶられるラストまでページを捲る手が止まらない、圧巻の第61回江戸川乱歩賞受賞作。

【BOOK】『わたしが消える』佐野広実:著 最後に残った記憶とは

自分の記憶が徐々に失われていくとしたら、いま、何をすべきだろうか。
これまでのすべての記憶がなくなってしまったら、自分は「生きている」と言えるのだろうか。
たしかに「生きていた」という証を、まだ残っている記憶の限りを残した男と、
それを追う主人公とその家族が最後に見たものとは何だったのか。
本作は、自己のアイデンティティと社会に巣くう不条理な力との狭間で、本当に大切にすべきことは何かを考えさせられた傑作である。