【BOOK】『翼の翼』朝比奈あすか:著 「待つ」という苦行
根源的・普遍的な「親としての在り方」を解く、家族の物語。 溢れかえる情報の嵐や、周囲の「空気」に振り回され、我が子を、そして自分自身をも見失う親の葛藤がリアルに描かれている。 中学受験の光と闇を浮き彫りにし、親の在り方、 …
根源的・普遍的な「親としての在り方」を解く、家族の物語。 溢れかえる情報の嵐や、周囲の「空気」に振り回され、我が子を、そして自分自身をも見失う親の葛藤がリアルに描かれている。 中学受験の光と闇を浮き彫りにし、親の在り方、 …
日本の絵師(画家)として有名で近年最も人気が高いと思われるのは、葛飾北斎と伊藤若冲だろう。 特に伊藤若冲は2000年以降に脚光を浴びたことで現在でも多くのメディアでも取り上げられている。 細密で写実的な、スーパーリアルな …
いつの時代も、今この瞬間を一生懸命に生きることがその人のベストなのだろう。 伊藤花は母の知人である黄美子と、同年代の蘭や桃子とスナック「れもん」を経営しながら、擬似家族のような暮らしを始める。 やがてトラブルが続き、カー …
複数の不審死案件にある共通点が見つかった。
どの屍体にも、とある漢字らしきものが描かれていたのだ。
その漢字らしきものとは『暃』と表示され、調べるとそれは「幽霊文字」と呼ばれる“読みも意味も無い”文字であった。
捜査している最中、次の不審死が起こる。
この幽霊文字は何を意味するのか、なぜ身体に描かれているのか。
事件の謎と文字の謎が混じり合う一瞬、あなたが見ている世界が反転する。
「道徳」という言葉はおそらく誰しもが一度は聞いたことがある言葉だろう。
だが、説明しろと言われるとこれほど困難な言葉はない。
どのように説明しても合っているようなそうでもないような、曖昧で非常に手触りのない言葉でもある。
関西に程近い地方都市・鳴川市。
『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』有名陶芸家が死亡している現場に残された謎のメッセージ。
次々に起こる類似したイタズラとも思われる事件が続く中、ビデオジャーナリスト伏見は謎の女・越智冬菜からドキュメンタリー映画のカメラマンを依頼される。
それは過去に同じ鳴川市で起きた殺人事件を追う内容だったが、証言者を撮影していく中で現在の事件とのリンクに気づいていく・・・
謎が謎を呼ぶ展開に心揺さぶられるラストまでページを捲る手が止まらない、圧巻の第61回江戸川乱歩賞受賞作。
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
中学校の終業式のホームルームで女性教師が告白する。
登場人物全員がどこか歪んで拗らせている。
その歪みは、それぞれの主観で綴られた「独白(モノローグ)形式」の文章によって、より際立っている。
衝撃的なラストに息を飲む、第6回本屋大賞受賞作。
「正体」とは何の「正体」を指しているのか?
もちろん本作の主人公である「少年死刑囚」で「脱獄犯」鏑木慶一を指しているのだが、本作はいわゆる「フーダニット」のミステリーではない。
誰が犯人とされているのか、は読者には一旦示されている。
その上で、「正体」とは何を指しているのだろうか。
鏑木慶一は「なぜ」死刑となったのか、「なぜ」脱獄したのか。
もっと言えばタイトルを「正体」とした「理由」は何なのか?
実はいわゆる「ホワイダニット」の物語なのだ。
主人公・谷原京子は、吉祥寺にある中規模書店「武蔵野書店」の文芸書コーナー担当の契約社員。
本が好きだからという理由もあって書店員になった。
山本猛という名前だけは勇ましいヘタレ店長とのトラブルの日々が続く中、誰も想像し得なかった事態に巻き込まれていく、ノンストップ書店エンターテイメント。
働くことに悩みはつきもの。そんな悩みをも一緒に笑い飛ばせる一冊。
高校生の頃の淡い初恋の人の名前を、PCのパスワードにしている中年男性は、どれくらいいるだろうか。
実はそこそこの割合で存在しているのではないか、と私は密かに思っている。
初恋の人、とまではいかなくても、大切な人の名前や、子どもがいれば子供の名前をパスワードにしている人は、想像しているよりも多いのではないか。
人によって、仕事によってもちろん違いがあるが、一日に何度も入力することになるパスワードを、大切な人の名前にしているということは、常にその人を思い出し、イメージを反芻することになるはずだ。
ずっと忘れたくない、という思いがそこには透けて見える。
あなたのパスワードは誰の名前だろうか?
昭和40年代、1970年代に生まれた私にとっても、未来はキラキラしていた。 空飛ぶ車で世界のどこにでも行き来できて、人間は働かなくてもよくて、雑用はロボットに任せて…。 少年雑誌には未来の素敵な生活を示したイラストが度々 …
タイトルの『オロロ畑でつかまえて』はもちろん、サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』のパロディーではあるが、内容面でそこまで寄せていったというものではないと思ったが、どうだろうか。
各章ごとに広告用語を配して、その内容とリンクされているような内容、と思わせつつ、ユーモアたっぷりのドタバタ劇が展開されていく。
まるで漫画やアニメのようなキャラクター設定で、テンポよく話が進む。
ボリューム的にも映像化されたら、2時間ドラマできっちりとオチがつくだろうと思わせる、このまとまりの良さも読んでいて気持ちが良い。
圧倒的な暗黒の暴力と麻薬に堕ちた者の末路は神へ捧げられる“生贄”だった。
アステカの神話と現代をつなぐ命の刹那と永遠。生まれ、死ぬことでまた生まれる命のリレーと、際限のない欲望が渦巻く資本主義の成れの果てが描くのは、現代社会への鎮魂歌(レクイエム)なのか、もしくは希望(ホープ)なのか。
第34回山本周五郎賞受賞、第165回直木賞受賞のW受賞という快挙を達成した新次元のクライム小説。
「慈雨」とは、万物をうるおし育てる雨。また、ひでりつづきのときに降るめぐみの雨のことをいう。
主人公・神場は警察官を定年退職し、妻と共にお遍路の旅に出る。
巡礼の最中、捜査中の幼女誘拐事件が16年前の自身も関わった事件と酷似していることに気づく。
過去の過ちと警察組織への忠誠心の狭間で葛藤する男の、真実への矜持が迸る傑作長編ミステリー。
「ルビンの壺」とは、1915年ごろデンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した多義図形のことを指す。
白と黒のモノクロで構成された図案で、ちょうど影絵のように、向かい合う2人の顔のようにも見えるし、大きな壺のようにも見える。
人間の情報処理の研究分野である認知心理学では、あるひとまとまりの模様を「図」として認識し、それ以外の背景を「地」と呼ぶ。
人間の知覚は、あるものを見た時にひとまとまりのものであれば「図」として認識するが、同時のその背景は「地」としてしか認識できない。
認知が固まってしまうのだ。
ルビンの壺の絵を見た時、向かい合う2人の横顔と認識した人は、その周りを背景としてしか認識できない。
逆に、大きな壺だと認識した人は、その周りは背景としてしか認識できない。
どちらも間違いではないが、ふたつを「同時に」認識することは、人間にはできないのである。
人類が言葉(言語)を使い始めたのは、約10万年から8万年前くらいだとされている。 それぞれの地域でそれぞれのコミュニティを形成するにあたっては、言葉がなければ実現しえなかっただろう。 その言葉を、言葉の意味を、語釈を、簡 …
余命わずかであることがわかった主人公・僕は、突然現れた自称・悪魔に取引を持ちかけられる。
「この世界からひとつ何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得ることができる」
自分の命と引き換えに、世界から何かひとつが消えていく。
愛すべきものたちが次々となくなっていくことで、紐づいていた関係や思い出も、まるで今までも存在しなかったかのように世界は変わることはない。
果たしてそれは本当に「いらないもの」だったのか。
いや、世界には「必要なもの」など本当はなかったのだろうか。
喪失の物語であると同時に、生きることの意味、かけがえのないもので溢れた世界をどう泳ぐかを問う、現代の寓話だ。
女優志望だった風俗嬢・上田朱美が殺された。
生前、殺した男に何の気なしに語られた言葉は、12年前の未解決事件への関与を仄めかしていたことから、再捜査が動き出す。
今はもう最前線にはいない合田雄一郎刑事は、警察大学校で教鞭を取りながら、過去の過ちを反芻する。
大人の人生の薄昏さと、若者が抱くやり場のない怒り。
母と娘との間の「呪い」あるいは「毒親」的な振る舞いは、現実と記憶の狭間で微妙に薄汚れていく。
圧倒的な解像度で綴られる2005年と2017年の空気、そして今は亡き「少女A」を取り巻く関係者の、確かにそこに生きていたため息が漏れている。
合田雄一郎シリーズ最新作にして圧倒的な傑作。
いつ、誰が描いたのか不明な一枚の絵の謎を追う内に、時代に翻弄されたある一族の壮絶な歴史を紐解くことになるエンタテイメントサスペンス。
現役アイドルが書いた小説、という枕詞がこれまでも必ずといっていいほどついて回ってきただろう。
だが、今後はその枕詞は必要ないし、自然と外れていくと思う。それだけの筆力を感じたし、色眼鏡で見て読むのをやめるのは勿体無い。
私はラストで涙を抑えることができなかった。
生きるとは何か、幸福とは何か、正義とは何なのか。
本書に描かれているのは、現代に生きる我々に響く「問い」だ。
生真面目で何不自由なく暮らしていた専業主婦は、なぜ巨額の横領事件を起こしてしまったのか。
梅澤梨花が求めていたのは恋か、愛か、温もりか、安心か、それとも確固たる自分自身だろうか。
そしてそれはお金で買えるものだったのだろうか。
疾走する焦燥感が胸にせまる長編サスペンス。
なんという瑞々しい文体だろうか。
冒頭からその若さが溢れ出ている。
“推し”のアイドルがファンを殴ったという情報がSNSで拡散し炎上する、という風景から物語は始まる。
推しに全ての時間、アルバイト代、興味関心を捧げた先に彼女は何を見たのか。
希望と絶望との狭間で揺れ動く幼年期の終わりは来るのか。
第164回芥川龍之介賞受賞作。
宇佐美ではなく宇佐見、『推し燃ゆ』ではなく『推し、燃ゆ』である。
本作が2作目で、史上3番目の若さでの芥川賞受賞ということで話題になった。
デビュー作『かか』は2019年に第56回文藝賞を受賞、2020年に第33回三島由紀夫賞を史上最年少受賞している。
こういう人を「天才」と呼んでも差し支えないだろうと思う。