【BOOK】『ガーディアン』薬丸岳:著 教師の矜持とは

Kindle Unlimitedで読了。
タイトルから一瞬、SFっぽい内容なのかと思ったが学園ものだった。ただ、普通の学園ものではないあらすじを見て、読んでみようと手に取った(Kindleなのに手に取るという表現はいかがなものかと思うが、ちょうどよい表現はなんだろう・・・)。
軽い気持ちで読み始めたが、この先はどうなるのか、ややサスペンス調に進む展開で中盤以降は一気に読ませる面白さだった。

Unsplashkyo azuma

匿名生徒による自警団「ガーディアン」が治安を守る中学校に赴任した秋葉は、問題が少なく安堵する。ガーディアンのメンバーは、問題のある生徒らに「制裁」を行っていた。相次ぐ長期欠席を怪しんだ秋葉が生徒の身を案じるが、同僚は激務に疲弊し事なかれ主義だ。秋葉が学校の秘密に気づくと、少年少女は一変し、天国から地獄に叩き落とされる。大人と子供の思惑が幾重にも交差し――薬丸岳史上最大級の衝撃があなたの胸を打つ!

引用元:ガーディアン: 薬丸 岳

薬丸岳さんの作品は初読みだが、かなりシンプルな文体で非常に読みやすい印象。

薬丸 岳
1969年兵庫県明石市生まれ。駒澤大学高等学校卒業。2005年、初めて執筆した『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞受賞。主著に『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』などの夏目シリーズ、『友罪』、『ラストナイト』などがある。

引用元:ガーディアン: 薬丸 岳

かなり淡泊な文体なので、逆に言うと抑揚がないというか、熱量的なものはあまり感じなかったが、ここは好みだろう。

逆にいうと淡々としているからこそ、ジワジワと迫り来る得体の知れなさを際立たせているとも言える。
ただ、苦労したのは、登場人物の多さ。学園ものなのである程度は仕方がないとは思うが、識別することが難しかった。学年と名前だけではイメージしづらく、よほど特徴があるとか、重要な人物でないと覚えきれない。
そこで、一度読んだあと、登場人物をメモしてみたが、予想以上に多くて驚いた。
ネタバレ注意
ーーーーーネタバレ注意ーーーーー

テーマとしては、大きく2つに大別できるのではないだろうか。
ひとつは「いじめ」に関して。
生徒自身による自警団=「ガーディアン」という設定が物語中盤にかけて徐々に明らかになっていく。当然、そこには、「善か悪か」という葛藤が、教師側にはある。

UnsplashHakan Nural

いじめが原因で未成年が死亡するなどの報道が後を絶たない。このたびのコロナ禍では見えないところで増えているのではないかと推察する。報道ではきまって「なぜいじめが起きたのか」「いじめをなくすにはどうすればいいか」といった話をコメンテーターが延々と繰り返す。そこに答えは出ないのに。
いじめ自体はこれからも亡くならないだろう。
だからこそ、いじめはなくならない、という前提で対応することが必要だ。

日本の学校のいじめの現状は、被害者が不登校になるというケースが多いようだ。
それには、加害者を隔離して通常登校させない取組が必要だ。だが加害者は平然といつも通りに登校するという現実がある。加害者こそ指導が必要なのに、教師によるいじめがあるという考えたくもない現実がそこにはある。
「スルーしよう」教師が児童に“いじめ” 担任交代(テレビ朝日系(ANN)) – Yahoo!ニュース
“滋賀県野洲市の小学校で、男性教師が児童に対し「スルーしよう」などと不適切な発言を繰り返し、学校は教師による「いじめ」と認め、担任を交代させていたことが分かりました。”
愛知県一宮市中3自殺、囁かれるいじめの実態 | 週刊女性PRIME | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
“愛知県に住む中学3年生の佐藤勇樹くん(仮名・14)がJR大阪駅近くにある商業施設「グランフロント大阪」の7階から飛び降り命を絶ったのは、2月6日午後11時35分ごろのことだった。”

UnsplashJames Sutton

どんな生物も、狭い空間に閉じ込めると、1〜2割の個体がいじめにあう、という研究結果を見たことがある。そのいじめられた個体を切り離しても、また別の個体がいじめにあうらしい。
どんなに防ごうとしてもいじめは発生する。生物として生き抜いていくために、他の個体を踏み台にしてのし上がるのが生物の生存本能なのだとしたら、いじめは避けられない。

ある意味では「ガーディアン」は集団の中で優劣をつけてしまう、いじめの本質的な特性を利用した仕組みなのかもしれない。
生徒による自警団として、学校の生徒全員がガーディアンメンバーとなり、ひとたび誰かに制裁が下されると該当者(制裁が下された本人)以外全員が該当者を無視をする仕組み。これは生徒でも先生であっても同様だ。制裁が下された本人には5日間の出席停止。
このいびつな、抑圧された管理体制は、毎日なにかにおびえながら暮らす生活を余儀なくされることを意味する。

もうひとつは、学校と教師の矜持とでも言うべきか、生徒を守り、教え指導していく存在として、暴力や学級崩壊などによる「荒れた」環境を押さえ込むガーディアンという存在は、認めたくない気持ちと認めてしまいたい気持ちとがせめぎ合っている。
監視社会、管理社会の是非という側面もある。ある特定の組織(学校など)を管理する際、制裁をチラつかせるやり方は、果たして本当に有効に機能するだろうか? という問いもある。

最終的に主人公:秋葉がガーディアンの存在に気づき、謎を追い続け首謀者を見つけ出すが、実は他の先生たちもガーディアンの存在には気づいていた。気づいていながら、黙認していたのだ。

生徒のことを思って、あえて黙認していたということになっているが、これにはやや違和感を持った。
現実には中学校の教師はこんなに良い人たちばかりではない、と思う。いや、いい人には違いないのだろうが、正直であるが故に戦略的ではなく、肉を切らせて骨を断つということができない人たちだろう。
だが、それができたのが秋葉だった、のかもしれないということがラスト3行で締めくくられていた。鳥肌が立った。

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