【BOOK】『#真相をお話しします』結城真一郎:著 絶対に予想できない真相


本屋が好きで週末はだいたい足を向ける。
最近、やけに目立つ帯とインパクトのある表紙で気になっていた書籍を、半ば衝動的に購入した。
5つの短編から構成されているのだが、ひとつひとつの編がひと癖もふた癖もあるストーリーになっており、ひとつを読み終えたら、すぐに次に進むには休憩が必要なくらい「濃い」作品集だ。

奥付によると、『#真相をお話しします』は「ハッシュタグしんそうをおはなしします」と読むのが正解らしい。いかにも現代的なタイトル通り、舞台設定が非常に現代的で新しいものをテーマと併せている。家庭教師の学生営業、マッチングアプリ、精子提供、リモート飲み会、YouTuberといった「現在進行形の日常」を切り取ったテーマが紡がれている。

読み始めると、まず「事」が起こった直後、あるいは過ぎ去った過去を回顧するように「あのとき」を反芻する、静かなスタート。
読み進めると、次第に何とも言いようのない「違和感」に包まれる。何となくおかしいなこれは、と感じながらも、具体的にどこがどうおかしいのかはハッキリとしづらい、そういうモヤモヤした感覚を持ち続けながら読み進む。
ラスト近くになって、予想だにしなかった結末に向かって疾走する。
そしてラストで、さらにもう一段、予想できかかった結末をくるりと華麗にひっくり返される。
普段は本を読まない、という層にも、おもしろいと言わせるだけのパワーがある作品だ。

著者は結城真一郎さん。

1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、三冊目の長編作品である『救国ゲーム』を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。

引用元:#真相をお話しします: 結城 真一郎 + 配送料無料

本作に収録されているのは次の5編。()内は初出掲載誌。
惨者面談(小説新潮2019年2月号)
ヤリモク(小説新潮2021年2月号)
パンドラ(小説新潮2021年9月号)
三角奸計(小説新潮2022年2月号)
#拡散希望(小説新潮2020年2月号)

私はたまたまだが、「パンドラ」を小説新潮で読んでいて、面白いと思って他の作品もチェックしていたところだった。

ネタバレ注意としながらも、各短編の内容には迂闊に触れてしまうと、作品自体の致命傷にもなりかねないので、簡単に感想を述べるに留めたいと思う。

「惨者面談」

家庭教師の学生営業マン、その営業先の家庭の母親、とその息子、という三者が最終的にタイトル通り「惨者」ということなのだが、なぜかこのストーリーには既視感があった。
あの「アンジャッシュ」の「スレ違いコント」のような構造になっているのだ。もちろん本作はシリアスなストーリーなので、コントのような笑えるものではないのだが、なぜか三者がそう思えてしまったのだ。

「ヤリモク」

妻子がありながら夜な夜な「マッチングアプリ」で知り合った女の子を「お持ち帰り」する中年男性。冒頭から1mmも共感できないのだが、ラストではこの男の考えていることが俺には分かる! と共感せざるを得なかった。
親は無条件に子を愛するが故に狂う。
子は必ずしもそうではない。

「パンドラ」

なかなか子どもを授かることができなかったものの、念願叶った夫婦が、今度は不妊に悩む人たちへ「精子提供」を行う。
果たして「我が子」とは、どう定義できるのか。
考えさせられてしまった。

「三角奸計」

学生時代からの腐れ縁を大切に、社会人になっても「リモート飲み会」で近況を知らせ合う。コロナ禍にあって、そういったニューノーマルも定着しつつある。
だけどやっぱりリアルで会うのが一番、と思っていたが、考え直すことも考えた方がいいかもしれない。

「#拡散希望」

人気YouTuberを夢見る小学生仲良し4人組が「真相をお話します」と言って暴露したのは・・・。
全てがコンテンツになる時代とはいえ、その影響をよくよく考えないと、と警鐘を鳴らす作品。

UnsplashSibel Yıldırım

全体的にはやはり「その展開はちょっとありえへんなあ」という苦しいストーリー展開も見受けられたのが正直なところ。たしかに辻褄は合っているものの、そこはやはりフィクションの醍醐味といえばそうなのだが。
しかし、いったいどうやったらこんなひねりにひねったストーリーを考えつくのだろうか。

Amazonのページでのレビューはかなり荒れているようだ。
いくつか読んだが、どれも独りよがりの言いたい放題な内容に思える。
「俺がこういうストーリー(謎・伏線)だと思ったのに、そうじゃなかった。(だから)つまらない」といった内容が多い。

こういった「浅い読み方」は中途半端に本を読んでいる層に多い気がする。いや、本の読み方は人それぞれでよいのだが、レビューを荒らしたり、つまらないと声高に叫ぶ必要は無いのに、なぜか鬱憤をネットに吐くことで解消しようとしている人が多い。
本は愉しんで読むものであろう。

宣伝帯
帯にある有栖川有栖(作家)先生のコメント『「騙されて驚くためにミステリを読む」という読者に格好の贈り物』が本作を表現する最高の言葉だと、読み終わってから首が取れるほど頷いた。

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