【BOOK】『罪の声』塩田武士:著 過去を振り返るだけではない未来へつながる希望の物語

実際にあった「グリコ・森永事件」をモチーフとした傑作長編小説。
もちろん本作はフィクションだが、犯行声明や事件発生日時など、可能な限り史実に基づいて描かれている。
これはフィクションの皮を被った、限りなくノンフィクションに近い犯罪の記録と、過去を振り返るだけではない未来へつながる希望の物語だ。

金の角持つ子どもたち

【BOOK】『金の角持つ子どもたち』藤岡陽子:著 自ら飛ぶための力

5年続けてきたサッカーで選抜メンバーに選ばれなかったことから、中学受験をして夢を叶えたいという少年・俊介と、現実とのせめぎ合いの果てに子どもを応援する親と、信念を元に子どもたちに勉強を教えてきた塾講師・加地が見たのは、子どもたちが自らの力で勝ち取った「金の角」という武器だった。
中学受験を巡る親と子と塾の世界で巻き起こる、希望と再生の物語。

【BOOK】『転々』藤田宜永:著 人生を振り返り前を向く東京散歩

井の頭公園をスタートし、ゴールだけを決めて東京を東へ散歩するロードミステリー。
借金を抱えた青年・竹村文哉と強面の男・福原愛一郎。
「百万円をやるから一緒に散歩をしろ」という奇妙な提案を受け、文哉は福原とともに歩き出す。
東京散歩を縦軸に、文哉の純愛物語を横糸に、偶然に出会う人々と、さらに絡み合う福原の謎、文哉の人生と家族の謎。
短いけれど切ない人生を振り返り、再び生き直すための散歩は、衝撃の結末を迎える。

【BOOK】『理由』宮部みゆき:著 現代社会の落とし穴

東京都荒川区の超高層マンションの一室で起きた凄惨な殺人事件。
男女の死体と老婆の死体。そしてベランダから落下したと思われる若い男性の死体。
計4名の惨殺死体は、そのマンションの住人ではなかった・・・。
事件を中心に、膨大な数の関係者の証言をまとめた形で表現されるルポタージュの構成は、社会に潜む落とし穴を見事に浮かび上がらせる。
圧倒的な解像度で関係者間の関係性を活写する、極上のリアリティで綴られる大作。第120回直木三十五賞受賞作。

【BOOK】『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ:著 助けてと声を上げ「呪い」を解く物語

「世界一孤独なクジラ」が歌う声は52ヘルツで響く。ただしその声は他のクジラには聞こえない。
助けてという声が他の誰にも届かない孤独を背負って、深い海を漂うそのクジラに、希望はあるのだろうか。
児童虐待、ヤングケアラー、ネグレクト、トランスジェンダーなど、助けてと声を上げても聞いてもらえない者の悲しみは、52ヘルツで歌うクジラそのものだ。
2021年本屋大賞受賞作。「自立」に必要な、たったひとつの「呪い」を解く物語。

【BOOK】『わたしが消える』佐野広実:著 最後に残った記憶とは

自分の記憶が徐々に失われていくとしたら、いま、何をすべきだろうか。
これまでのすべての記憶がなくなってしまったら、自分は「生きている」と言えるのだろうか。
たしかに「生きていた」という証を、まだ残っている記憶の限りを残した男と、
それを追う主人公とその家族が最後に見たものとは何だったのか。
本作は、自己のアイデンティティと社会に巣くう不条理な力との狭間で、本当に大切にすべきことは何かを考えさせられた傑作である。