「スモール・ワールド」といえば多くの人は某夢の国を思い浮かべるだろうが、私のようなネット漬けな人間だと「スモールワールド現象」を想起し、すぐに「六次の隔たり」を連想するだろう。
六次の隔たりとは、ある人Aさんと面識のないBさんがいて、友達の友達を介していくと、大体6人目くらいにはBさんにたどり着く、ということを表した言葉である。
簡単にいえば、広いようで世間は狭い、ということだ。
本作はそんな「小さな世界」を描いた6遍の物語が詰まっている。
ひとつひとつの物語は、小さな世界として独立して存在しつつ、それぞれの登場人物たちがわずかに交わったりすれ違ったりしながら、関係性を見せている。
それはまるで「六次の隔たり」を意図しているかのように。
人生には、本人たちの知らないところで、あの人とあの人とがつながっていたり、自分の行いが知らない誰かの人生に影響を与えていることも、想像するよりもずっと多くあるのかもしれない、と思わせられる。
スモールワールズ
スモールワールズ | 一穂 ミチ |本 | 通販 | Amazonより引用:
最終話に仕掛けられた一話目への伏線。
気付いた瞬間、心を揺さぶる、鳥肌モノの衝撃が襲う!!
読売新聞、日経新聞、本の雑誌……各紙書評で絶賛の声続々!
「驚きの完成度!」――瀧井朝世さん(『スモールワールズ』公式HP書評より)
「BL界の鬼才恐るべし」――北上次郎さん(日本経済新聞 5月6日書評より)
夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。
6つの短編の主人公たちは、皆それぞれに、人によっては重いと感じる生きづらさややり切れなさを抱えて生きている。
『ネオンテトラ』の美和は不妊に悩みつつ夫の不倫に気づいても問い詰めることができないままでいる。
『魔王の帰還』の真央は別れた夫の事情を知ったことで受け入れるしかない現実に押しつぶされそうになる。
『愛を適量』の慎吾は離れて暮らしていた子が想像だにしない姿になった事実に戸惑い続ける。
いずれの短編も非常にリーダビリティに優れていて、シーンが映像としてスッと入ってくる。
文章力の高さに驚くとともに、ストーリーの巧みさにも舌を巻いた。
全ての話が、緩やかに進み先の展開がおおよそ読めてきそうなところ、油断した瞬間にガツンと急展開するのである。
一切の疑念を挟む余地もなく、ストーリーの流れに翻弄されつつ、ラストまで一気に読んでしまう。
私が最も愛すべきは『愛を適量』だ。
スモールワールズ(著:一穂ミチ・講談社文庫2023年10月13日発売)公式サイト │ 講談社より引用:
くたびれた中年教師の慎悟は、十数年ぶりに我が子と再会する。「しばらく置いてほしい」と言う子どもとの不思議な共同生活で、家族の時間を取り戻すことはできるのか。
人との距離感における「適量」が分からない私にとって、最も共感した物語だ。
コミュニケーションの難しさを常に感じながら生きてきた主人公に、心を揺さぶられた。
ちょうどいい、が分からない人間にとって、不自由さ不可解さを感じていたのは自分だけではないのだ、ということに気づけただけで、今この瞬間の人生が愛おしく感じる。