【BOOK】『不発弾』相場英雄:著 金と強欲と贖罪の狭間の物語


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日本は1980年代のバブル景気の前夜と弾けた後、30年以上経った。
臭いものには蓋をして先延ばしにしてきたいま、「大掃除」に迫られている。
そんな現実をリアルに感じさせてくれる作品だ。

日頃ニュースなどで見聞きする「債務超過」や「不適切会計」などの経済用語がばんばん飛び出すが、
都度過不足なく説明されるので、読んでいて分からなくなるということはなく、分かりやすい。


巨大電機企業崩壊は悪夢の序章に過ぎなかった――!
バブル終焉時、日本中の企業に埋め込まれた「損失」爆弾。
膨らみ続けるバブルの負債が、いま炸裂する。
大手電機企業・三田電機が発表した巨額の「不適切会計」。捜査二課の小堀秀明は、事件の背後に一人の金融コンサルタントの存在を掴む。男の名は、古賀遼。バブル直前、地方の商業高校から「場立ち要員」として中堅証券会社に入社した男は、バブルという狂乱の時代を経て、凄腕の「飛ばし屋」となっていった……。
激動の証券業界を生き延びた男が語る、闇に葬られた「粉飾決済」の裏側とは。
小説でしか描けない経済界最大のタブー!

引用元:不発弾 | 相場英雄 |本 | 通販 | Amazon

対照的な二人の主人公

主人公は二人、と言っていいだろう。
古賀と小堀。出自から生き様、時代まで、まるで正反対の二人の物語が交互に綴られる。
古賀は福岡県大牟田市、すでに繁栄が過ぎ去った炭鉱の町に生まれ、貧困から脱出し、証券会社に就職することで上京する。
小堀は警視庁捜査二課第三知能犯捜査係のキャリア警視。捜査二課は詐欺や贈収賄、企業内の横領、背任行為などの知能犯を専門に摘発する部署を束ねるエリートだ。
多くのドラマや小説では、殺人や強盗など強行犯を追う捜査一課が舞台になることが多いが、本作品では経済事件を扱う捜査二課が動くところが面白い。
古賀はやがて証券マンとしてめきめきと頭角を現し、扱う金額がどんどんと膨らんでゆく。
周囲から任される仕事が増えるごとに感覚は麻痺していき、次第に自分ではどうにもならない役割を担うことになる。

ーーーーーネタバレ注意ーーーーー

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先輩上司・中野の隆盛と没落

強欲で攻撃的で、何者をも怖れない上司としての中野。
子どもが白血病になったことで金を集めなければならなかった父親としての中野。
どちらが本当の中野なのか?
いや、どちらも本当の中野なのだろう。

血反吐を吐くまで仕事に邁進する時期は、若いときにはありがちだ。
そんなときは、自分には何でもできるという自負があふれでいるものだ。
周りに対して攻撃的にもなるだろう。

そして、家庭を持ち、子どもを授かれば、自ずと価値観は変わってゆく。
子どもが第一となり、優先順位は変わってゆくものだ。
どちらもひとりの人間としてのあり方だし、年齢的なものもあるだろう。

古賀は変わっていく中野に次第に違和感を持つようになる。
これは、古賀自身の成長が追いついていないからではないか、と思う。
ライフステージが変わることで自ずと価値観も変わるのは自然なことだ。

古賀自身がその価値観をずっと炭鉱の町のころの「こんな貧しい生活から抜け出したい」というものから変えていないことからくる違和感だったのだろう。
その「価値観の変わらなさ」がまさしく「不発弾」なのだ。
後述するが、毒親や地元の腐った縁が、不発弾としてずっと古賀自身の人生に重しとして乗っかかったままでいたのだ。

恋人・佐知子の存在

北海道の出身で親に反発して家出同然に出てきたにも関わらず、父親の死が古賀によるものと分かった途端に手のひらを返して古賀を憎む、という点に、やや違和感を持った。
たしかに肉親に認めてもらいたい、という感情は分からないでもないが、単身東京で心細くも頑張ってきたときに、ふと声をかけられいっしょになった古賀との間に、濃密な時間があったはずなのに・・・。と思わずにはいられない。

仕事の話しはお互いにしない、という描写があったにせよ、仕事に苦悩する内実を慮ることはなかったのだろうか?
お互いに田舎の出身であれば、人と人との距離感に、物足りなさを感じなかったのだろうか? という私自身の田舎者特有の違和感が拭えなかった。
だがしかし、古賀は佐知子がスパイであることに全く気づいていなかった。古賀は毒親によって満たされなかった「母性」を佐知子に求め、佐知子といる時だけが唯一安心できる場所だったのかもしれない。佐知子のほうは、満たされなかった「父性」を古賀では十分に満たせなかった、のかもしれないとも考えられる。
佐知子もまた、満たされなかった思いを持ち続けたままの「不発弾」を抱えたまま生きてきた、ということだ。


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リアルな世界観設定と企業群

作中に登場する企業名はどこかしらモデルがあるようだ。
それぞれが実際のどの企業をモデルとしたものかを考えるのも本書の楽しみ方のひとつだろう。
ノエルは老舗の乳酸菌飲料メーカーという描写があるのでヤクルトだと思われる。
ゼウス光学は医療用レンズなどを扱っていることからオリンパス。
JM(日本逓信・ジャパンメール)はもろに日本郵便か。
三田電機は名前は三菱電機だが、内容的には東芝か。
ヘルマン証券はどこだろうか。JPモルガンとかそのあたりか。

「不発弾」とはなんだったのか?

本作品のタイトル「不発弾」とは何をさしているのか?
これは当然、企業の負債を帳簿上に表面化させないための「飛ばし」によって、ひとまずはやり過ごした「不良債権」を指している。一時的に見えなくしてはいるが、ひとたび政治からのルール変更があれば、一気に表面化する「爆弾』となり得る。

そしてもうひとつの「不発弾」は、古賀の毒親・良美の存在と、妹・睦美を蹂躙し死に追いやった大牟田信金の荒井の存在だろう。
古賀は、当初、妹・睦美を東京に呼び寄せるはずだったが、睦美が自死してからは、ひたすらに仕事に邁進し、故郷とは縁を切っていた。にもかかわらず、古賀が仕事で成功し、荒井を貶め、自死に追いやったあとになって、母親・良美が強請ってくるのである。古賀にとっては縁を切りたい「爆弾」のような存在が、なりを潜めていたと思っていたのに、荒井の死が引き金となって暴発の危険が高まったこれこそ「不発弾」だったのだ。


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誰にでもある心の中の「不発弾」

この物語は、つまるところ、貧しい出自の人間はどんなにがんばっても、その環境そのものが「不発弾」となって常につきまとうものだ、ということを語っている側面がある。
古賀は頑張って勉強して部活も手を抜かず、高卒で証券会社に入社する。東証の「場立ち」で揉まれながらも日々コツコツと市場を分析することで頭角を現し、個人向け営業でのし上がる。やり手の上司に取り入り、法人営業に移ってさらに活躍する。政界や一部上場企業の重要人とのコネクションも築きさらに成り上がる。
しかし、どこまでいっても故郷・大牟田の寂れた炭鉱町に縛られて生きてきたのだ。

政治の世界で躍進する芦原恒三と握手した際、

体格の良い芦原だが、その手は存外に柔らかかった。大牟田では絶対にお目にかかれない人種だ。故郷の炭鉱町では、男たちの手は例外なく節くれ立ち、指先まで黒ずんでいた。芦原の柔らかく白い手に触れた瞬間、古賀はすべてを悟った。この国は、こうした白く柔らかい手を持つ人間が支配している。

と悟る場面がある。
身分の差は、どう頑張っても変えることは出来ない、という著者からのメッセージなのだろうか?
その答えは、どこにもはっきりとは書かれていない。
それだけ、日本の病巣が深く根強く蔓延っていることだけは、この作品が示している。

相場英雄 『不発弾』 | 新潮社
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