
【BOOK】『プラチナタウン』楡周平:著 人生の終盤をどこで過ごすか
2025年はいわゆる「団塊の世代」が全員、75歳以上の後期高齢者となる年。
日本の介護の問題はもはや待ったなしどころか、時すでに遅し、なのかもしれない。
少子高齢化や社会構造の変化に伴い深刻化していることは間違いない。
来るべき、というかもうすでに来ている超・超・高齢化社会。
財政破綻寸前の小さな町・緑原町の起死回生の秘策が明らかとなる。
本作は平成20年(2008年)に発行された小説だが、読めばその先見の明に誰もが驚愕することになるだろう。
プラチナタウン (祥伝社文庫)
楡 周平(著)
祥伝社
堀田力さんさわやか福祉財団理事長・弁護士 、推薦!
「この作品は、大震災を経験して いっそう社会から求められるものになる」 「老人介護」や「地方の疲弊」に真っ向から挑む社会派ビジネス小説! 出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を呷り泥酔。気がついた時には厖大な負債を抱えた故郷緑原町の町長を引き受けることに。だが、就任してわかったことは、想像以上にひどい実情だった。私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。そんな困難に挫けず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが……。
日本の介護問題を改めて見つめ直してみる。
まず、介護施設の定員オーバーや人材不足により、必要なサービスを受けられない「介護難民」が増えている問題がある。
特別養護老人ホームへの入居待機者は約25万人に上り、供給と需要のミスマッチが顕著である。
介護職員の数が不足している問題もある。
2025年に必要な介護職員の数は概算で約253万人。
しかし実際に供給できる労働力は約215万人しかいないという。
つまり2025年には約38万人の介護職員が不足すると予測されているのだ。
施設に入れないのであれば、家族で面倒を見るしかないが、核家族化や単身世帯の増加により、家族による介護が難しくなっていることも現実である。
高齢者同士で介護を行う「老々介護」や認知症患者同士による「認認介護」が増加し、家庭内での負担は深刻化の一途を辿っている。
このように、どこを突いても問題だらけで突破口が見当たらない。
しかも、本作の舞台、緑原町はこれらの介護問題だけでなく、町の存続そのものが危ぶまれる事態に直面していた。
それは、町の財政問題である。
町の負債が150億円にまで膨らんでおり、このままでは「財政再建団体」(2003年3月1日に自治体財政健全化法が完全施行されてからは「財政再生団体」)として国の管理下のもとで財政再建を進めていくことになる。
これは地方自治体として主体的に「地方自治」を行うことができなくなる、ということを意味する。
財政再建団体になってしまう理由はいくつか事例がある。
一つは地域産業が国のエネルギー政策の転換によって衰退してしまう場合などがある。
北海道夕張市の例では石炭から石油へのエネルギー転換政策によって地域の炭鉱が閉山し、税収が減少、市の財政が悪化してしまった。
他にも、公共事業や行政サービスを拡大しづつけた結果、コストが嵩み、それに対する税収が追いつかないケース。
さらにその穴埋めとして地方債を発行し過ぎた結果、返済が滞ってしまうなどのケースが挙げられる。
このように、本作の舞台である緑原町は、2つの大きな問題、介護の問題と財政の問題を抱えていることがわかる。
主人公・山崎鉄郎は、大手総合商社「四井商事」の穀物部穀物課課長というエリートコースを辿りながらも、あと一歩というところで出世街道から外されてしまう。
幼馴染のクマケンこと熊沢健二(緑原町役場総務課企画係係長)から頼み込まれ、仕方なく、故郷である緑原町の町長になる。
町長となった山崎が町の二大問題を一挙に解決しようとする試みとして『プラチナタウン』という構想を実現に向けて奔走する姿が描かれている。
物語はもちろんフィクションであるが、現実に実現可能かどうか、ギリギリのリアリティラインを突いていると私は感じた。
介護施設とショッピングモール的な日常施設、娯楽施設を融合した取り組みは、現実にないわけではない。
アメリカの事例だが、多くのショッピングモールが閉鎖されたあとの再利用が進んでいる。
特に、モールを高齢者向けの住宅や介護施設に転用する動きが注目されているようだ。
オクラホマ州立大学の研究チームは、オクラホマシティにある空きモールを高齢者向けの総合施設に改装するプロトタイプを提案。
このプロトタイプは、独立生活、介護付き住宅、認知症ケア、医療センター、職員住宅などを含む総合施設として活用されている。
日本では地方の過疎化が問題となっているが、アメリカでも同様にモールの衰退が、大きな課題として挙げられているようだ。 オンラインショッピングの普及により、モールの役割が減少しているため、再利用が求められている。 一方で、高齢化社会において、地域に根ざした高齢者向け施設の需要が高まっている。 そもそもアメリカでは子どもが親の介護をする、という慣習がなく、そもそも子どもは独立したら、故郷を離れて別の地域で暮らすことが当たり前という価値観がある。 このような背景において、モールを高齢者向け施設に転用し、地域で包括的に介護問題をケアすることは、地域社会の活性化にも寄与する可能性があると考えられている。
こういったプロジェクトの実現には、公私連携が重要とされるだろう。
公的資金や税制優遇を活用することで、開発コストを削減することが最大の成功要因とも言えるからだ。
本作の緑原町の例でも、この点はうまく描かれている。
緑原町の「公」が担う部分と、民間企業である大手総合商社「四井商事」とが手を組み、既得権益者を跳ね除け、プロジェクト成功へ突き進む。
そのため「四井商事」出身の主人公・山崎が必要であり、彼の商社マンとしての手腕と行政機関に蔓延る庶民感覚とのズレがこれでもかと詰め込まれた本作は、フィクションでありながら、あながち絵空事とは言い切れない絶妙なストーリーテリングが冴え渡っている。
さらに、民間企業のエリート出身者が地方の小さな町の町長となって、既得権益者と丁々発止のやり取りを繰り広げる、という筋書きは、あたかも昨今の「石丸伸二」氏の対地元議会、対地元メディアとのバトルとも重なる部分があり、改めて先見の明があったと驚かされた。
本作の初出は2008年、石丸氏が安芸高田氏の市長になったのは2020年である。
幸せな老後とは何か。
人生の後半戦をどこで過ごすかを考えるということは、人生をどこでどのように終えるのかを考えるということと同義だ。
まだ身体が動けるうちは、思いっきり好きなことをやり、
2012年8月からWOWOWの「連続ドラマW」枠でテレビドラマ化された。
現在はU-NEXT、Huluなどで視聴可能。
・プラチナタウン(国内ドラマ / 2012) – 動画配信 | U-NEXT 31日間無料トライアル
・プラチナタウン | Hulu(フールー)
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