第二次世界大戦時、ドイツ軍の最強の暗号「エニグマ」を解読したイギリスの天才数学者アラン・チューリングをモデルとした実話がベースとなったヒューマンドラマ。
天才であるが故に純粋で、マイノリティであるが故に孤独な、そして愛に飢えた独りの天才数学者が、戦争終結を早めた。
この事実をイギリス政府は50年に渡って極秘扱いとしていたという。
そして、アラン・チューリングが開発した暗号解読機は、現在の、あなたがいま使っているコンピュータの元となったのである。
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第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇った世界最強の暗号<エニグマ>。世界の運命は、解読不可能と言われた暗号に挑んだ、一人の天才数学者アラン・チューリングに託された。英国政府が50年以上隠し続けた、一人の天才の真実の物語。時代に翻弄された男の秘密と数奇な人生とは――?!
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』予告編
ーーーネタバレ注意!ーーー
「エニグマ」とは
ギリシア語が由来の「謎」「パズル」などを意味する言葉だ。本作では、第二次世界大戦時、ナチスドイツが使用した暗号機を指す。
ただ、暗号を解くといっても、単純に単語を置き換えればいいというものではない。
ドイツ軍が発する無線のモールス信号を傍受し、暗号化された文字列の中から、当初は159×10の18乗通りの組み合わせを総当たりで解いていく、という方法を試していた。
ただ、暗号の鍵は毎日0時にはリセットされるので、日付を跨いだらまた総当たりはやり直しだ。
そんな非効率なやり方では時間がいくらあっても足りない。
アランはその日その日の暗号を解くのではなく、もっと汎用的などんな暗号でも解ける電子計算機を作ることに着手する。
しかし、計算量が膨大なため、毎日の計算が追いつかない。
期限切れだとして、アランは辞職させられそうになる。
仲間の協力も得て、女性の通信傍受係の同僚の話から、特定の言葉にヒントを得て、解読機「クリストファー」が完成する。
余談だが、こちらが「暗号」についての基本的な知識として、大変わかりやすかった。
暗号の歴史は人類の歴史そのものだったのだ。
純粋であるが故の残酷さと悲哀、そしてマイノリティとしての孤独
アランは寄宿学校で学んでいたころ、その行動や言動が他の生徒たちと違っていたことから虐めの対象となっていた。
おそらく、今で言う発達障害の傾向が現れていたのだろう。
発達障害というマイノリティの側面だ。
相手の言葉をそのまま受け取ってしまったり、言葉の裏を読むことが苦手だったりといった行動が顕著に見られた。
とても生きづらかっただろう。
だが、アランはその生きづらさを、その超絶明晰な頭脳でカバーし、大学で教授として数学の研究を続けてきたのは大変な努力が必要だっただろう。
当時、理不尽な暴力に合うなか、親友クリストファーが庇ってくれていた。
アランは同性でありながらクリストファーに恋心を抱いていたのだ。
アランは同性愛者というマイノリティーでもあった。
だが、告白寸前にクリストファーが結核で死亡してしまう。
ここからアランの生涯取り除くことが出来なかった喪失が始まったのだ。
アランは暗号解読機に名前をつけた。
(実際はボンブという名前だったようだが)
親友であったクリストファーの名前からとった。
それは信頼し、愛していた親友を亡くしたことに対する寂しさと孤独感がそうさせたのではないだろうか。
クリストファーに「誰も予想しなかった人物が、誰も予想しなかった偉業を成し遂げる」という言葉をもらい、それは生涯、アランを奮い立たせる言葉として、彼を救うのだった。
そしてその言葉はクリストファーからアランに、アランからジョーンへ伝えられた。
その言葉通り、アランの開発した電子暗号解析装置は、今で言うコンピューターの基礎となったのである。
天才数学者というマイノリティでもあった。
アラン・チューリングは『計算する機械と知性』という論文を1950年に発表している。
その中ではアランが考案したテストとして、本作のタイトルとなった『The Imitation Game (「模倣ゲーム」)』が載っている。
暗号解読はクライマックスではない
エニグマの解読に成功し、ドイツ軍の動きが読めるようになると、すぐに自軍に知らせて戦死者を無くしたい、と考えるのが普通だ。
おそらく視聴者もそうすべきだと思わせられていた。
だが、急にイギリス軍が奇跡的な動きをして、ドイツ軍の攻撃をかわせば、ドイツ軍はエニグマが解読された、と勘づくだろうと予想する。
結果的にはエニグマの解読に成功したことを極秘事項とし、ドイツ軍に悟らせないようにうまく掴んだ情報を活用し、MI6をも巻き込んでイギリス軍がうまく立ち回れるように、したたかに活用したのだ。
さらには、チーム内のソ連スパイがケアンクロスだということが判明したが、これもMI6と協力し、あえてケアンクロスをチーム内に残し、イギリスに都合のよい情報をソ連に流すように仕向けた。
最終的に、当時イギリスは劣勢だったが、アラン・チューリングたちが暗号解読に成功し、戦争終結を早めて多くの命を救ったのだった。
あくまでも戦争を終結させることが目的であって、解読そのものがゴールではない、という信念をアランは持っていた。
だが、当時は極秘扱いだったため、戦争終結後も、その功績に見合った待遇は得られなかったようだ。
1954年6月7日、ホルモン治療を続けたアランは、自殺している。
享年41歳。
圧倒的なマイノリティだったアラン・チューリングは、「誰も予想しなかった人物が、誰も予想しなかった偉業を成し遂げる」そのものだったのだ。
こういった「天才」は、偏差値を重視し、みんなと同じことが善とする日本の教育制度においては、このままでは生まれないだろう。
それはアラン自身がマイノリティであったがために受けた理不尽な差別や暴力はもとより、人間はそれぞれが違った存在であり、違っていることが当たり前なのだという考え方が、ようやく時代が追いついてきたことからも、よくわかるだろう。
発達障害という特性を持って生まれたアランが、もし生きづらさを感じなくて済む社会であったなら、もっと早くに、もっと理想的な解読機が開発されていただろう。
戦争はもっと早くに終結し、よりよい世界が構築されていたに違いない。
人間はそれぞれが違った存在であり、違った得意分野がある。
そうした「得意」をうまく組み合わせることで、より効率よく、より最適な仕事ができるようになる。
ダイバーシティ、ジョブ型採用という言葉だけが空虚に飛び交う日本社会では、イノベーションは生まれない。
それぞれに違った「苦手」もある。
そうした「得手不得手」を「上下意識」と見なすことなく、それぞれを尊重することが社会性動物である人間には、できるはずである。
もっともっと真剣に、このことについて考える人が増えることを祈りたい。
暗号機エニグマへの挑戦 (新潮文庫 ハ 32-1)
エニグマ アラン・チューリング伝 上
エニグマ暗号戦: 恐るべき英独情報戦 (光人社ノンフィクション文庫 409)
エニグマ・コード: 史上最大の暗号戦 (INSIDE HISTORIES)