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【MOVIE】『怪物』(2023:日本)他者との対話で己を知ること

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そのラベリングは正しいと言えるのか?
そんな問いを思い浮かべたのだが、観終わって、自分自身に自信がなくなってしまった。
他人の、ある一面だけを見て分かった気にならないように気をつけていても、見えていないことを理解することはとても難しい。
バイアスを持たずに、状況から事実だけを積み上げたつもりが、実は全く違う真相を持っていたりする。
事実がもしかしたら事実ではないかもしれない、と疑い始めたら、では何を信じればいいのだろうか?
常識か? 親子の愛か? 学校か? 先生か? 友達か?

(15) 映画『怪物』予告映像【6月2日(金)全国公開】 – YouTube

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誰にも言えない秘密を抱えたまま、親にすら気を使い、時には自分自身すら騙してしまう、思春期の危うさ、寂しさ、やるせなさ。
「怪物だーれだ?」と言いながら額にカードをかざす。
自分からは自分のカードが見えない。
相手のカードは見える。
相手に質問をして、自分のカードが何なのかを探る。
人間は、自分の顔を自分だけでは見ることができない。
鏡など自分以外の存在がなければ、自分を知ることはできない。
だからこそ他者が必要であり、他者との交流によってのみ、自身を知る術はないのである。


その大切な他者との関係が、今まで知らなかった自分を知るきっかけになることもある。
新しい自分を知ることは、生き返るということにも繋がる。
思春期の多感な時期を通ることで、子どもだった自分から、新しい大人としての自分に出会う。
性的なマイノリティであることの自覚が芽生えるとか、
教室というコミュニティにおける振る舞いがうまく立ち回れないとか、
誰かに決めつけられるのではなく自分で道を見定めて進むとか。
いずれも他者なしでは成立しない、大切なことばかりだ。


本作は、母親の視点、先生の視点、子どもの視点から、
同じ出来事をそれぞれの視点で描くことで、全く違う意味を見出してしまうように練られている。

母親の視点からは、担任の教師が非を認めず反省もしない、とてもひどい教師に見えてしまう。
教師からの視点では、守るべき存在だった子どもたちから嘘をつかれ、学校からも守ってもらえず、一方的に加害者扱いされてしまう。
子どもたちの視点からは、何でも親の都合のいい子ども像を押し付けられ、日々息苦しさを感じている日常が描き出される。

三者三様の、それぞれの正しさが、うまく周囲に伝わらないまま、物語は進んでいく。
自分が知らなかったこと、見えていなかった事情がそれぞれにあることを想像することは、実は非常に難しい。
だからこそ、他者との対話をするべきなのだろう。
怪物だーれだ、のゲームのように、自分の本当の姿は自分では気づきにくい。
他者との対話を通して、己を知るしか方法はない。


ここでいう「怪物」とは、何を指しているのだろうか。
それは、「自身が怪物であることを自覚していない人間」を指しているのではないだろうか?
無自覚な怒り、無自覚な甘え、無自覚な親切などは、無自覚であるがゆえに時に暴力になる。
その無自覚な力で、人が傷つき、死に至ることもある。

ラストシーン、子どもたちは、自らの性的マイノリティを徐々に自覚することで、新しい世界を手に入れたように見えた。
自分自身を肯定すること、それによって新しい景色を見ることができる。
それはつまり「成長」というのだろう。
そのためにはまず、他者との対話が必要で、相手に対するリスペクトがなければならない。


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