ノマドランド
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【MOVIE】『ノマドランド』(2021:アメリカ) 居場所を探し続ける者

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パソコンを持ち歩いてカフェをウロウロしながら仕事をする、といういわゆる「ノマドワーカー」の話ではない。
2008年のリーマンショックによる経済恐慌の煽りを受けたリタイア世代が生活のために家を売り払うこととなった。
多くが自家用車に最低限の家財道具を積み込んで寝泊まりしながら、季節ごとの仕事を求めて各地を”遊牧”することになる。
安い時給の肉体労働をしながら各地を転々とする「現代のノマド」たちは、それでも同じ境遇の”仲間”たちと互いを支え合うことを忘れてはいなかった。


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リーマンショック後、企業の倒産とともに、長年住み慣れたネバダ州の企業城下町の住処を失った60代女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)。彼女の選択は、キャンピングカーに全ての思い出を詰め込んで、車上生活者、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩くことだった。その日その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流とともに、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく。大きな反響を生んだ原作ノンフィクションをもとに、そこで描かれる実在のノマドたちとともに見つめる今を生きる希望を、広大な西部の自然の中で探し求めるロードムービー。

ノマドランド – 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画より引用:

主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)はネバダ州のエンパイアで暮らしていた。
病気で先立たれた夫と共に勤めていたUSジプサム(採掘会社)がリーマンショックの煽りを受けて倒産。
採掘場は閉鎖され、住人全員が立退となった。
ファーンは必要最低限の家財道具を車に積み込んで旅に出る。

EC最大手Amazonの物流倉庫での仕事や、キャンプ施設の清掃員など、各地で仕事を見つけ短期間働き、また別の地域へ移動するという生活を続ける。

本作の原案は、2017年にアメリカで出版されたノンフィクション『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』である。

グレートリセッション(2000年代後半から2010年代前半にかけての世界中で見られた大規模な経済的衰退の時期)以降、季節ごとの仕事を求めてアメリカ中を旅する生活に仕方なく陥った年配のアメリカ人の実態が描かれている。

キャンピングカーで自由気ままに旅をしながら、各地でほどほどに仕事をする。
そんな生活を羨ましいと思う人は多いだろう。
会社勤めに息苦しさを感じながらも、止めることができない人も多いに違いない。
むしろ仕事が楽しくて仕方がない、という人の方が少数だろう。
ノマド的な自由な暮らしは憧れやロマンの対象だ。

white and orange van on gray asphalt road during daytime
Photo by Kevin Schmid on Unsplash

だが、現実はそうではない、ということをリアルに観せているのが本作だ。
以前付き合いのあった人たちからは「ホームレスになったの?」と心配される。
移動中、車を泊めるためにはその敷地のオーナーに許可を求めなくてはならない。
夜は冷えるから、よかったら教会なら宿泊できると心配される。
断ったものの本当に夜は極寒で寝ようにも寝られない。

ネタバレ注意
ーーーネタバレ注意ーーー

高齢で健康面も不安要素のひとつだ。
ある日突然、知り合いがいなくなる。
家族がいる者は引き取られていくが、家族がいない者はどうしたらいいのだろうか、と。

仕事もいつもあるとは限らないので、常に新しい仕事を探さなければならない。
車は住居でもあるので、故障したときは命に関わる。
砂漠地帯の真ん中でパンクして走行できなくなれば、それだけで死に直面する。

自由だけれど孤独な生活は、自由だけれど常に不安と寂しさに覆われている。
そうした不安を払拭するためか、ノマドたちは集い、語らう。
自身の境遇を話し、相手の過去を聞き、共に慰め合う。
そうしてひとときの不安を和らげた時、ふと見上げた景色はなんと美しい朝焼けだろうかと気づく。
だが、一方で思う。
ここは自分の居場所ではない、と。

ファーンは旅の途中、知り合った男性デイブに好意を持たれる。
デイブの息子が一緒に暮らそうと迎えに来て、男性は息子家族と共に暮らすことを選ぶ。
ファーンはその家族のもとへ遊びに行き、デイブに一緒に暮らさないかと誘われる。
ファーンの心は揺れ動く。
このまま1人で暮らしていく先には、看取るものがいない未来しかない。
その圧倒的な孤独感。
だが、ファーンはデイブが息子と共にピアノを弾く姿を見て、身を引く決意をする。
ここは自分の居場所ではない、と。

ファーンはエンパイアの自宅ガレージに、私物を残したまま旅をしていた。
亡くなった夫との思い出と共に生きていた。
人間はいつか死んでしまうが、思い出は生き続ける、と信じていた。
だからこそ、結婚指輪もずっと外さないままでいた。

だが、いつまでも思い出を反芻しながら生きることは、果たして本当に自分の人生と言えるのだろうか。
仲間を亡くし、追悼する中でファーンは気づく。
誰かに仕えることで寂しさを超えていくことができる、
思い出に浸りながらの生活は、自分の居場所ではない、と。

常に自分の居場所を探し続け、それでも生きていくことを選んだ者、それがノマドなのだろう。

日々の暮らしの問題も、仕事の問題も、健康の問題も、何も解決策はないし、本作で示されることもない。
それは簡単な解決法はどこにもない、ということでもある。
様々な保証や安定を求めていても、この先どうなるかは誰にもわからない。
我々にできることは、今この瞬間を安全に楽しむくらいしかないのだと。

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