記憶が80分しか持たない「博士」と家政婦として派遣された「私」と、「私」の息子「ルート」の、愛と優しさと少しの哀しさが奏でる物語。
数学の純粋さと奥深さを知る「博士」は、世界のあらゆる物事を数字で表現する。
数字は言語であり、ものさしであり、想像力の全てを表現できるツールでもある、と信じている「博士」の身の回りの世話をすることになった「私」は、次第に博士に惹かれていく。
ただそれは、男女の愛情ではなく、かといって友情でもなく、「友愛」とでもいうべき感情であった。
そんな3人を結ぶ縦糸は数学だけではない。
それは「江夏」である。なぜか「江夏」なのだ。
あの、野球の、左投げ投手の、なぜか阪神タイガース時代の、である。
これまで読んだことのない、独特の読後感が残る、優しくて温かい物語だ。
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【BOOK】『プラチナタウン』楡周平:著 人生の終盤をどこで過ごすか
2025年はいわゆる「団塊の世代」が全員、75歳以上の後期高齢者となる年。 日本の介護の問題はもはや待ったなしどころか、時すでに遅し、なのかもしれない。 少子高齢化や社会構造の変化に伴い深刻化していることは間違いない。 […]
【TVドラマ】2025春(4月開始)ドラマリスト
2025年4月開始ドラマの中で個人的に気になったドラマ絞りに絞っての15本のリストである。
2025年前期の朝ドラ『あんぱん』(今田美桜主演)を除くと、突出して目玉となりそうな作品がないという寂しいラインナップ。
強いて言えば『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(多部未華子主演)が『私の家政婦なぎささん』のようなテイストに感じられ期待はしている。
あとは安定の日曜劇場が安定の阿部寛で臨む『キャスター』、瀕死のフジテレビの最後の徒花とならなければいいなと願う『続・続・最後から二番目の恋』(小泉今日子と中井貴一のダブル主演)に期待。
【MOVIE】『怪物』(2023:日本)他者との対話で己を知ること
そのラベリングは正しいと言えるのか?
そんな問いを思い浮かべたのだが、観終わって、自分自身に自信がなくなってしまった。
他人の、ある一面だけを見て分かった気にならないように気をつけていても、見えていないことを理解することはとても難しい。
バイアスを持たずに、状況から事実だけを積み上げたつもりが、実は全く違う真相を持っていたりする。
事実がもしかしたら事実ではないかもしれない、と疑い始めたら、では何を信じればいいのだろうか?
戦争を経験した最後の世代が、後期高齢者となって現在の日本を憂い、革命を起こすべく立ち上がりテロを起こす。
そんな荒唐無稽な設定が、現実にあり得ないとは言い切れない、と思わせるほどのリアリズムで、精緻な筆致によって綴られている。
本書が刊行された2015年から10年経った2025年は、「団塊の世代」全員が後期高齢者になる。
戦後生まれの「団塊の世代」は戦争を経験していない先頭の世代である。
もう戦争を経験した世代が元気にテロを起こすことはないかもしれない。
だが、本作にはテロを起こすしかないと思えるほどの、ある感情が、今もなお日本を覆い尽くし、閉塞感を突き破るのではないかと問うているのだ。
【BOOK】『少年と犬』馳星周:著 犬に人としての生き方を学ぶ
犬は「人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物」だという。
本作は、ある一匹の「犬」を中心に、犬を取り巻く人間たちの物語が6遍の連作短編から構成されている。
視点人物は人間たちであるにも関わらず、その中心には常に同じ「犬」がいる、不思議な構成だ。
第163回直木三十五賞受賞作。
【BOOK】『有罪、とAIは告げた』中山七里:著 想像と創造の間で
AIが人を裁く時代はもうすぐそこに来ているのかもしれない。
あらゆる業界・業種においてコスパ・タイパが叫ばれる昨今、chatGPTをはじめとした「生成AI」が現場に導入され始めている。
大量のデータから最適な組み合わせを提示するその能力から、仕事の効率化・迅速化が必要とされる場面では重宝されている。
もし、裁判官の業務をAIが代わりにできるのなら、大量の法律知識や過去の判例などを「深層学習」し、最適な「判決」を導き出せるかもしれない。
人が人を裁く時代から、AIが人を裁く時代になるのか。
一歩、いや、半歩先のリアルを描くリーガルサスペンス。
【BOOK】2024年読んだ小説まとめ
2024年に読んだ小説の感想文まとめ。
読める時は3冊/月くらいのペースだが、読めない月もあり、1年間で19冊。
平均すると1.5冊/月となる。
だが「読んだけど感想文を書いていない小説」もいくつかはあるので、概ね2冊弱/月が実際だろうか。
引き続き可処分時間の確保に努めたい。
【TVドラマ】2025冬(1月開始)ドラマリスト
2025年1月開始ドラマの中で個人的に気になったドラマ絞りに絞っての9本のリストである。
(年末年始特別ドラマ除く)
【2025】NewYear2025
日々のがんばりがミを結びますように
【BOOK】『スモールワールズ』一穂ミチ:著 思い通りにいかない人生を受け入れるために
ひとつひとつの物語は、小さな世界として独立して存在しつつ、それぞれの登場人物たちがわずかに交わったりすれ違ったりしながら、関係性を見せている。
それはまるで「六次の隔たり」を意図しているかのように。
人生には、本人たちの知らないところで、あの人とあの人とがつながっていたり、自分の行いが知らない誰かの人生に影響を与えていることも、想像するよりもずっと多くあるのかもしれない、と思わせられる。
【BOOK】『翼の翼』朝比奈あすか:著 「待つ」という苦行
根源的・普遍的な「親としての在り方」を解く、家族の物語。 溢れかえる情報の嵐や、周囲の「空気」に振り回され、我が子を、そして自分自身をも見失う親の葛藤がリアルに描かれている。 中学受験の光と闇を浮き彫りにし、親の在り方、 […]
【BOOK】『若冲』澤田瞳子:著 生きることの意味を問い続けた孤高の天才絵師
日本の絵師(画家)として有名で近年最も人気が高いと思われるのは、葛飾北斎と伊藤若冲だろう。 特に伊藤若冲は2000年以降に脚光を浴びたことで現在でも多くのメディアでも取り上げられている。 細密で写実的な、スーパーリアルな […]
いつの時代も、今この瞬間を一生懸命に生きることがその人のベストなのだろう。 伊藤花は母の知人である黄美子と、同年代の蘭や桃子とスナック「れもん」を経営しながら、擬似家族のような暮らしを始める。 やがてトラブルが続き、カー […]
【BOOK】『5A73』詠坂雄二:著 読みのない文字をどう読むか
複数の不審死案件にある共通点が見つかった。
どの屍体にも、とある漢字らしきものが描かれていたのだ。
その漢字らしきものとは『暃』と表示され、調べるとそれは「幽霊文字」と呼ばれる“読みも意味も無い”文字であった。
捜査している最中、次の不審死が起こる。
この幽霊文字は何を意味するのか、なぜ身体に描かれているのか。
事件の謎と文字の謎が混じり合う一瞬、あなたが見ている世界が反転する。
【BOOK】『道徳の時間』呉勝浩:著 ルールと道徳の違いは「あなた」の存在
「道徳」という言葉はおそらく誰しもが一度は聞いたことがある言葉だろう。
だが、説明しろと言われるとこれほど困難な言葉はない。
どのように説明しても合っているようなそうでもないような、曖昧で非常に手触りのない言葉でもある。
関西に程近い地方都市・鳴川市。
『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』有名陶芸家が死亡している現場に残された謎のメッセージ。
次々に起こる類似したイタズラとも思われる事件が続く中、ビデオジャーナリスト伏見は謎の女・越智冬菜からドキュメンタリー映画のカメラマンを依頼される。
それは過去に同じ鳴川市で起きた殺人事件を追う内容だったが、証言者を撮影していく中で現在の事件とのリンクに気づいていく・・・
謎が謎を呼ぶ展開に心揺さぶられるラストまでページを捲る手が止まらない、圧巻の第61回江戸川乱歩賞受賞作。
【BOOK】『告白』湊かなえ:著 全員が拗らせた結果としての悲劇とほんの少しの希望の光
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
中学校の終業式のホームルームで女性教師が告白する。
登場人物全員がどこか歪んで拗らせている。
その歪みは、それぞれの主観で綴られた「独白(モノローグ)形式」の文章によって、より際立っている。
衝撃的なラストに息を飲む、第6回本屋大賞受賞作。
【TVドラマ】2024秋(10月開始)ドラマリスト
2024年10月開始ドラマの中で個人的に気になったドラマ13本のリストである。
【TVドラマ】2024夏(7月開始)ドラマ鑑賞後感想メモ
気になるドラマは多かったものの、最後まで完走できたのは少なかった。
【BOOK】『正体』染井為人:著 この世の地獄の正体は
「正体」とは何の「正体」を指しているのか?
もちろん本作の主人公である「少年死刑囚」で「脱獄犯」鏑木慶一を指しているのだが、本作はいわゆる「フーダニット」のミステリーではない。
誰が犯人とされているのか、は読者には一旦示されている。
その上で、「正体」とは何を指しているのだろうか。
鏑木慶一は「なぜ」死刑となったのか、「なぜ」脱獄したのか。
もっと言えばタイトルを「正体」とした「理由」は何なのか?
実はいわゆる「ホワイダニット」の物語なのだ。
【MOVIE】『オデッセイ』サバイバルにはユーモアを
火星でのミッションの最中、トラブルによって取り残されてしまったマーク・ワトニーは奇跡的に生きていた。自らの知識と知恵で、自分以外誰1人いない火星で生き延びるサバイバルSF。
【TVドラマ】2024春(4月開始)ドラマ鑑賞後感想メモ
目玉があまりなさそうなクールだと思いきや、終わってみれば意外と豊作だったのではないかと思う。
完走したのは、
- アンチヒーロー
- 老害の人
- VRおじさんの初恋
- アンメット ある脳外科医の日記
- 天使の耳〜交通警察の夜
- Destiny
- 燕は戻ってこない(まだ最終回前)
- 約束 〜16年目の真実〜
- Believe−君にかける橋−
- 季節のない街
- 花咲舞が黙ってない(今田美桜主演)
- パーセント
の12本であった。
【TVドラマ】2024夏(7月開始)ドラマリスト
2024年7月開始ドラマの中で個人的に気になったドラマリストである。 今クールは絞りに絞って11本。プラス朝ドラ『虎に翼』。 大河ドラマ『光る君へ』は脱落した。 ブラックペアン シーズン2 降り積もれ孤独な死よ 素晴らし […]
【BOOK】『店長がバカすぎて』早見和真:著 人生はコネクティング・ザ・ドッツ
主人公・谷原京子は、吉祥寺にある中規模書店「武蔵野書店」の文芸書コーナー担当の契約社員。
本が好きだからという理由もあって書店員になった。
山本猛という名前だけは勇ましいヘタレ店長とのトラブルの日々が続く中、誰も想像し得なかった事態に巻き込まれていく、ノンストップ書店エンターテイメント。
働くことに悩みはつきもの。そんな悩みをも一緒に笑い飛ばせる一冊。
【BOOK】『未必のマクベス』早瀬耕:著 ハードボイルドでピュアな究極の初恋小説
高校生の頃の淡い初恋の人の名前を、PCのパスワードにしている中年男性は、どれくらいいるだろうか。
実はそこそこの割合で存在しているのではないか、と私は密かに思っている。
初恋の人、とまではいかなくても、大切な人の名前や、子どもがいれば子供の名前をパスワードにしている人は、想像しているよりも多いのではないか。
人によって、仕事によってもちろん違いがあるが、一日に何度も入力することになるパスワードを、大切な人の名前にしているということは、常にその人を思い出し、イメージを反芻することになるはずだ。
ずっと忘れたくない、という思いがそこには透けて見える。
あなたのパスワードは誰の名前だろうか?
【BOOK】『トワイライト』重松清:著 想い描いていた未来とは違ったけれど
昭和40年代、1970年代に生まれた私にとっても、未来はキラキラしていた。 空飛ぶ車で世界のどこにでも行き来できて、人間は働かなくてもよくて、雑用はロボットに任せて…。 少年雑誌には未来の素敵な生活を示したイラストが度々 […]
【TVドラマ】2024春(4月開始)ドラマリスト 22本
2024年4月開始ドラマの個人的に気になったドラマリストである。 今クールの注目は朝ドラ新作を含めて22本。多い。多すぎる。全部観れるわけがない。これ前期も言った。 いちおう連続ドラマだけに絞ってある。 一部は5月始まり […]
【TVドラマ】2024冬(1月開始)ドラマ鑑賞後感想メモ
2024年1月開始ドラマの感想メモである。
最後まで見たドラマは今季は9作品であった。(まだ最終回を迎えていないものは含まず)
【BOOK】『オロロ畑でつかまえて』 荻原浩:著 広告という嘘から見えた真実は
タイトルの『オロロ畑でつかまえて』はもちろん、サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』のパロディーではあるが、内容面でそこまで寄せていったというものではないと思ったが、どうだろうか。
各章ごとに広告用語を配して、その内容とリンクされているような内容、と思わせつつ、ユーモアたっぷりのドタバタ劇が展開されていく。
まるで漫画やアニメのようなキャラクター設定で、テンポよく話が進む。
ボリューム的にも映像化されたら、2時間ドラマできっちりとオチがつくだろうと思わせる、このまとまりの良さも読んでいて気持ちが良い。